ロジスティクスAI 戦略のポイント
From:朴成浩
「オブリビオン」という映画をご存じでしょうか? トム・クルーズ主演の2013年の映画です。
地上にいる人間はトム・クルーズただ一人。荒野でエイリアンと戦うドローンたちをメンテナンスする。それがトムの仕事です。
もしかしたら、未来の物流の現場はそんな感じになるのかもしれません。
ロジスティクスAIを突き詰めた物流企業は一体、どういう姿になるのでしょうか? 現在、その理想形に最も近いと目されているのが Amazon ですね。
無人の小型ヘリコプターによるドローン宅配など、SF的な実験ばかりが面白おかしく伝えられることが多いですが、実は、倉庫内のドローン活用については相当に実用化されています。
たとえば、棚を運ぶドローン。最近、日本でも川崎のセンターに導入されて話題になりました。
ピッキング作業において、人間が棚まで歩いて行くのではなく、まるでロボット掃除機のように棚が人間の方に「歩いて」くるのです。
ロボットが棚を運ぶ光景はネットの動画などでも見ることができます。本当に近未来的で驚くべきものなので、ご覧になっていない方は是非、一度、ご覧下さい。
<ITメディア取材記事>
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1612/06/news107.html
どうでしょう?
もし、「いや、こんなの自動倉庫で良いでしょ?」と思った方、そういう方がいましたら今すぐその認識を改めて下さい。
想像してみてください。もしこのロボットたちが縦横無尽に走行しているのが倉庫の外の道路だったらどうでしょう? 彼らが運んでいるのが、棚ではなくトレーラーだったらどうでしょう? 非常に想像が広がる光景です。
さて、こういうことを実現しようとしたとき、一番、重要になるのはどういう技術でしょうか? 自律走行するロボットのハードウェア技術はもちろん素晴らしいものです。こういう分野は日本企業が伝統的に得意とする領域ですが、実は重要なのはそこではありません。
決定的に重要になるのは「頭脳」に当たる部分、ソフトウェア技術なのです。
ここで注意して欲しいのですが、頭脳と言っても、個々のロボットの頭脳ではありません。ロボットたちをどう指揮するか、いわばドローンを率いるトム・クルーズの役割ですね。
この「司令官の頭脳」の部分が死活的に重要になります。
どんなに優秀な兵隊を率いていても、司令官が無駄な指示ばかり出してロボットが空走するばかりでは戦いに勝てません。
ドローンや自動運転を有効に活用していくには、こういう「AIカー」をどのように動かすのが最も効率的なのか?を考えるノウハウが決定的に重要になります。
これは実は配車計画そのものです。単なる私たちのポジショントークではなく、ドローン・自動運転時代には、まさに「完全自動配車」のノウハウが核心的な技術になるわけです。
(アカデミックに言うと、最適なスケジューリングなどを扱う、学問的に「組み合わせ最適化問題」と言われる領域で、その中でも特に「移動」が絡む難しいタイプの問題を何とかごまかして解く・・・ついでに言えば非常に論文を書きにくくそれゆえ伝統的な学術評価を受けにくい領域の・・・技術です)
現在、日本でも「自動運転」というテーマが盛り上がっています。しかし、日本での関心は、「自動運転をどう実現するか?」ということばかりに偏って向けられているように思えてなりません。
自動運転が実現したらどうなるか、については、「AIカーが人を轢いたら誰が悪いのか?」というような、言い方は悪いですがある意味「後ろ向き」で「儲からない」議論がなされるばかりです。
その間にも、Amazon、あるいは昨年、ニトリさんが導入したことで話題になったもう一つのドローン倉庫「AutoStore」のように、海外企業は「AIカーを徹底的に働かせる」最適化のノウハウに莫大な投資を行い、研究・開発を進めている状況です。
残念ながら現状、こういう問題意識を持って我々に声をかけてくれる日本のロジスティクス企業は非常に少ないので、ここで改めて「完全自動配車」に取り組み、そのノウハウを集積していくことの重要性をお伝えしたいと思います。
++朴成浩