【社長コラム】

ロジスティクスAI 戦略のポイント

配車合理化のための最優先事項とは


【花房先生執筆コラム】SCM実行系スマートロジスティクスのススメ 第3回


配車合理化のための最優先事項とは




適時適量の物流計画とは?


物流が担っているのは、製造・販売の流通機能だ。数えて運ぶ単純な作業と思われがちだが、改めて確認したい。スマート物流では活動目的とその成果が重要だからだ。部分最適から全体最適の思想というべきものだ。

なぜ物流が必要なのか、それはそのモノを待っている人がいるからというが、ではなぜ待っているのか。

生産と販売という商業は対価の交換によって成り立っている。製造業は原材料をもとにした付加価値創造であり、流通は消費者との交換による付加価値の獲得である。

いずれもモノを中心の活動であるが、サービス主体の活動でも付属物や付帯物が欠かせず、経済活動におけるモノとサービスには必ずモノの移動と流通が欠かせないことになる。

それらを称してビジネスのサプラチェインと呼ぶが、経営学でいうバリューチェイン、デマンドチェインも同様である。

産業・業界のプレイヤー同士はパートナーに対して、物流を要求する。そのことをイメージしたのが図1であり、世界中から集ってくる原材料、半製品が加工され、移動して、最終消費に至るまでの関連を示したものである。



各プレイヤーがモノを扱うときには在庫、加工、発注、入荷というサイクルを繰り返すので、これが連携していることでサプライ・チェインが連続しているという。

原材料も半製品、完成品も次のプレイヤーに引き渡さなければならないので、輸送活動が必要になる。輸送はコストがかかるので、コスト最適な輸送計画がまず最初に思い浮かぶであろうが、更に前の段階を構想するのがスマートな輸送として注目しなくてはならない。


* * *


原材料から最終消費までのなかで、プレイヤー同士の取引を指す言葉にセルイン、セルスルーというものがある。

次のプレイヤーに渡すことも最終消費者に販売することも、同じように<販売>と考えられてきたが、実は大きく異なる。モノやサービスは最終消費者が対価と交換したときにおいてのみ、消費されるわけであり、ただ次のプレイヤーにわたすだけでは厳密な意味では<販売>ではなく、<債権の移動>に過ぎない。

債権の移動は便宜的、商法的なもので、返却や返品、値引き、取り消しが起きる可能性は十分にあり、返品が多発する食品やアパレルでは<販売>そのものが実態としては危うい用語であることも事実なのだ。

この違いを図2で示すセルイン(次のプレイヤーに商品移動と債権移動を行う)と呼んで、最終消費者が交換して消費が完結してモノが消滅するセルスルーとは区別する(最終消費者も返品引取ということもありうる。)

本来ならば完全に債権が移転したセルスルー情報をもとにして各プレイヤーは債権の精算が行われるはずだが、今まではモノの情報追跡や証明の手段がなかったために、売掛処理、買掛処理という時間を使って担保してきた。

時間担保とは、1ヶ月あれば渡した商品は売れて消費されるだろう、という予測にすぎない。商取引で「2ヶ月あれ使い切ってしまうから、代金を支払う」という時間担保が機能していないのが食品の賞味期限切れ廃棄やアパレルのバーゲン価格補償制度という値引き精算のしくみである。

セルスルーの実態が把握できず、情報が不確かだから、掛け処理を行っているのが現在の商取引なのだ。曖昧な商品債権をどれほど正確、迅速に輸送しても本来の目的は達せられたと言えるだろうか。



サプライ・チェイン上で配車計画の最優先事項は?


 従来の輸送計画は、いくつもの配送指示を分析、統合、整理して最も効率的な配車手段と配送経路を計画することがベストとされてきた。数十台の配送車両の計画運行には熟練の配車マンや人工知能も必要だろうし、容易な業務ではないだろう。

しかし、配車指示、すなわち次のプレイヤーからの要請をそのまま受け付けるだけでは、スマート物流とは言えない。指示命令をどれほど正確にすばやく実行できてもそれは当たり前の評価しか受けないはずだ。失敗がないことを評価されても、業績に成果を加えたことにはならない。

真にスマートな配送計画とは、図2でいうセルスルーに直結する無駄な在庫、無用な納品となる配送を排除することではないか。

適時適量な物流というのは、売れて初めて意味がある。ただの在庫移動ならば陳腐化や返品、減耗、紛失のリスクがあるだけで本来の意味での適正とは言えない。

セルスルー情報を獲得する手段とインフラ環境はすでに整備されている。

確実に売れる商品だけを運び、それを生産するだけの必要最小限の原材料、半製品を送り込むことが生産の最適化、在庫の最小化、ひいては経営エネルギーの最小化につながり、最大売上、最少コスト実現の基点になるだろう。

このことをスマートロジスティクスと呼ぶべき状態であり、配送計画のファクターにはセルスルー情報を取り込むことが必要と言えるのだ。つまりは受発注情報管理と輸配送計画、輸送実行管理とは、セルスルー情報によって統合されるべきシステム領域なのだ。


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本コラムは書籍『スマートロジスティクス ~ IoT と進化する SCM 実行系~』発刊を記念して、
監修者である花房 陵先生にご執筆いただいています。
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今後も次のような興味深いテーマについて取り上げていく予定ですので、
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++花房 陵


1978年慶大経済学部卒
経営・物流コンサルタントとして30年以上の豊富な実績をもち、
28業種200カ所以上の物流現場を指導してきた。
異業界などの最新トレンドの物流施策を導入・定着させる手腕には定評がある。
ロジスティクス・トレンド(株) 代表取締役、
(株)イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント、
協同組合物流情報ネット・イー相談役、ほか多数の物流顧問を務める。


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